10月

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夜、驚くぐらいに暇だったのでたっぷり驚いたこの夜、ぼーっと外を見ていたら光るおばちゃんが通り過ぎていったのを見たのだった。腹にまくベルト式のライトの光が散って着ている白いレインコートっぽい服全体をぼうっと明るませるようになっていて、だから全体に白い光を発散したおばちゃんがゆっくりとした歩調で通り過ぎていったのだった。そのどこかアンゲロプロス的な光景を見ながら私は以前友だちが書いたテキストを思い出した。そこには夜中の東京の静かなビル通りを、大八車を引いたおじさんが歩いていく姿が描かれていた。星とか散っている夜だった。大八車には確か、高い高い何かが置かれていた。ビルぐらいの高さのものだったかもしれない。描き出されるその光景は不思議な静謐さをたたえていて、そのテキストを書いた友人であろうところの「俺」はそのあと警察にしょっぴかれるのだった。所持していたカッターがいったい何なのかを、共通言語を持たない警察官たちに問い質されるのだった。奇妙なテキストで、私は都合、三度ほどはその長い文章を読んだ。繰り返し読んだわけではなく、思い出して久しぶりに読む、という三度ほどだった。どれだけ読んでも、いびつな力強さを溢れさせた圧倒的なテキストだった。それを思い出したのだった、驚くぐらいに暇だったのでたっぷり驚いてみせたこの夜。そしてまた真夜中が訪れて私は3時、YouTubeで延々とヒップホップの動画を見ていたら気がついたら3時になっていたためビールを開けるのかコーヒーを再び淹れてみせるのか、冷蔵庫にホイップクリームが仮にあるとすれば、ウィンナーコーヒーにしてみせるのか、そのことについて迷っているうちにまたこうやって指をカタカタと運動させ始めるのだった灰皿に置かれた煙草の煙が顔に流れてきて副流煙の被害に今あっているということについて私はたいへんな憤りを感じている。今朝はsimi labを聞いた朝だったのでそのあとに久しぶりにotogibanashi’sを聞いて、久しぶりに聞いたそれはやはり好意的に捉えられるべき一枚ではあり続けていた。今の私はもっと過剰な音が欲しいから、その過剰さはsimi labであってもいいし、fla$hbacksであってもいいし、vanadian effectであってもいいけれど、そういった音が欲しいからそういった音をたいがい聞いているけれどotogibanashi’sの流れ方や遊び方もまた、好ましいものであることには今でも違いはないことが判明した朝だったそのあとはよく働き午後はシエスタで夜は暇なのでいくらか溜まっていた伝票をエクセルに入力し続けた。データ的なものを取ることが好ましいことであることも開店以来ずっと変わらない気分であるために伝票を一枚一枚私たちはエクセルに入れていてそれで日の売上、月の売上、その他もろもろ、きっと興味深いデータを抽出できるようになっているのだけどいつも思うけれどもどういった指標をもって経営の様子を見るのが適切なのか。金の専門家みたいな人に5時間1万円ぐらいで教えてもらいたいマンツーマンで。エクセルとにらめっこしながらこういう指標を出してみたら色々と一目瞭然ですよねということを親切心からではなくて職業意識から教えてもらいたいしそれを学んで今後の経営的なことの糧というか参考にしたい。それをこの暇な夜には考えていたし消費税率が引き上げられることがとうとう正式に発表されたというニュースを今朝見て驚くことはもちろんなかったけれどもいったいいくら消費税を払うことになるのだろうと心配というかメニューの値上げとかも検討しなければいけないのだろうなと思うと煩雑で面倒くさい。消費税の納付は開業2年間というのは免除されていて、私たちは今3年目になるので今年から対象なのだけれどもどういう手続きで引き落とされるのかあるいは振り込むのか、それは帳簿上どういうふうに処理されるのか、まるで消費税のことはわからないので、どうやって計算するのかとか、はっきりしたことはわからないので、どうやって計算するとか、私はてっきり売上の今なら5%をシンプルに払うとずっと思っていたのだけど以前読んだフリーランスが云々の節税が云々という本で教えてもらったところによると5%シンプルではなく仕入れ等の段階ですでに消費税を払っているのでそういったことを加味して売上の5%の数十%とかを見なし方式で計算するとかなんとかだった。売上が5000万とかを越える事業者はなんかものすごい細かいことをしなければいけないとかなんとかだったし、私たちの商売においてそういった数字が出ることはありえないというかありえないことはないというかありえなくないとしたら太っ腹の老紳士が「とてもいい店だったから5000万円を払うよ、500円なんてけちなこと言わずに」と言ってぽんとキャッシュで5000万円を払ってくれたときだけだったから、めったになさそうな気がするから、関係のないことで、みなし方式でどうこうすることになるのだけど消費税が増税された暁にはどういった事態が起こるのかとか、そういうことを考えようとしても考えたことが今までなかったからまるでよくわからなくてそれはいいからヒップホップできれば暴力的で泥臭い音や声を聞きたいと私の耳は希求しているし、今年一番にぐっと来ているのは間違いなくvanadian effectで、毎日でもいいので聞きたいし今朝simi labを聞いていたらやっぱりすごいすごかったので特に最後の曲とか大好きなのだけどすごいものすごい通して格好いいし、そういえばomsbのアルバムはまだ聞いていないと、そう思いまたYouTubeを用い、その曲を見てみたところわけわからない音の連なりでこれは私の耳には大変好ましいかもしれないという思いを強めたので今日これからか明日かにでも買うだろう。ダウンロードは便利だ。ということで買った。ototoyで買った。ototoyは心配になるぐらい一瞬で買えるので便利だし、どうもダウンロードのペースが遅く、なんだか最近ネットの接続が変なようなところがあって一抹の心配を抱かないでもないがバルガス=リョサの『緑の家』も150ページぐらいまでは遅々として進まないというか何が起こっているのかまるでわからないので進まないというかページ進まないという印象だったのだけどどこからか読むスピード自体にはドライブが掛かり300ページとかを確か超えたはずで、あとはちょっとしたら終わるのだろうしだんだん何が起きたのかはわかってきたけれども、ダウンロードもいつの間にか終えていたからドライブが掛かったということらしかったけれども『緑の家』はドライブが掛かったからといって特別面白いわけではない。バルガス=リョサの書くものはこれまで読んだものはどれもそうだったけれども、すべての材料が作者の手の中に完全に掌握されているふうで、作者はそういった用意したパズルを面白く読めるように配置したり調整したりする役のようで、どこか鼻白んでしまうときがあって、『緑の家』も、一直線に過去から現在へと書いていけばいいところを時系列をごちゃごちゃと入れ替えまくってミステリアスな体裁にしていて、そういう作者の全能感みたいなものに対する違和感というか疑念はずっとあるので、それは村上春樹に対してだってもちろんそうだったし、リチャード・パワーズでも確かそれを感じたはずだったけれど、どうも、どうなの、という気がいつだってあるしリチャード・パワーズは新しいやつは読んでいないけれどもどこまでかは追っていて、それらはすべて完膚なきまでに面白かった。村上春樹は『1Q84』の2まで読んだけどそれはそう面白くなかったし村上春樹にはまりまくっていた高校生の時以降で面白く読んだというか一番いいんじゃないのかと思うのは『アフターダーク』だった。あの作品には、妙な手触りがあって「お、いいじゃん、チャレンジしてんじゃん春樹」と、なぜかフレンドリーに話しかけた記憶があった。私たちは誰一人として無垢でも無辜でも無害でもない。そのことを忘れた愚かな人間だけが使うある種の言葉がいつだってある。そういうことを思い出した。私は愚かには生きたくはない。人の挑戦や前進をあげつらい、ゴシップだけが話題の醜い人々とは一緒にいたくもない。3時半、ポットに水を入れ火に掛けた。火に掛けるで正しいのだったか火を掛けるかどっちだったかいつもというか使うたびに少し混乱するのだけど火に掛けるで正しかったはずで火を掛けるだと火を投げ込む感じがするし、ジャンヌ・ダルクを火に掛けるだから火に掛けるで合ってるような感じがするし、いずれにせよ3時半、私は今からどうやらコーヒーを淹れることにしたらしいし同時にiPhoneに今買ったばかりのomsbを入れてイヤホンをしてそれを聞こうとしているらしいし冷蔵庫を見たらホイップクリームがあったのでウィンナーコーヒーにしてみるつもりらしい。こういうとき飲食店は便利でとてもいい。リスペクトしたい所存だった。ここ数日、プロ野球の各球団の戦力外通告の記事を何個も見かける。え、あの選手が、ということもしばしばあり、それは何年か前に新人王を取った榊原諒だったりした。榊原はその年、ロングリリーフ専門というようなポジションで投げていて、いっときは投げるごとに勝ち星をえぐり取っていたような印象があった。きっと先発に回るんだろうな来年は、と思いながら、そのあとさっぱり見なくなった。そういえば宮西って今年どうだったんだろう、と思って成績を見たら今年もがんばっていたみたいだった。中継ぎは、本当に長持ちしにくい。増井もそろそろきついか。で、え、あの選手がの最たるところというか衝撃度が大きかったのは榊原もそうだったけれどもそれ以上に横浜に移籍した森本稀哲だったし今コーヒーが入ってウィンナーにしてみた。普段はブラックでしか飲まないけれどたまには飲んでみようと思ってそうしたのだけど想像以上に「ああ、おいしいな」と思えたので安心した。森本稀哲は日ハムから横浜にFAして2年になるだろうかあっという間に戦力外になってしまった。俺は一度だけ森本稀哲の実家の焼肉屋に、何かが決定する試合、パ・リーグ1位だったか、CSでのパ・リーグ優勝だったかが決定する試合を見ながら焼き肉を食いに、行ったことがある。その試合、日ハムはロッテに勝って何かを決めた。そのあと日暮里から池袋、新文芸坐、ゴダールのオールナイトだった。充実した一日だったそれは。俺はかつて一度だけ鎌ヶ谷の二軍球場に、小学5年か6年のとき、友だちと二人で電車を乗り継ぎ、秋季練習だか何かを見に行ったことがある。厚沢投手あたりからサインをもらった。そのときの私のイチオシ選手は石本だった。ソックスを長く履く。一軍でも、一時期いい具合に活躍した。東京ドームでも見た。その日の鎌ヶ谷でも見た。電車を乗り継ぎ、知らない町を歩き、スーパーか何かで買ったパンを昼飯として食らい、肌寒いか寒いその日、小さい僕らにとってそれはまさに冒険と呼ぶべきものだった。


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