2月

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生きとし生けることが本当に楽しくて毎日が楽しいから本当に毎日楽しくて楽しい。人と話すのも楽しいし本を読むのも楽しいし映画を見るのだって楽しいし仕事も楽しいし、なんなら買い出しだって楽しいし、ジムに行って走ることもまた、そして眠ることだって、あるいは洗濯をすることだって歯磨きをすることだって楽しいから全部が全部楽しく本当に楽しい。そのことが嬉しくて意識が空よりも高く飛翔して高く舞い上がりすぎたために太陽の熱で羽が焼けて海に失墜するイカロスのように楽しい。父親であるところのダイダロスがそれを嘆き、かつてダイダロスが殺そうとした弟子は今ではミネルウァの思いやりによって鷓鴣に姿を変え、ダイダロスの嘆きを見るのも楽しい。ダイダロスは鷓鴣だった青年を殺そうとしたわけだけどそれは彼が妹の息子だからだったからではなく、コンパスやのこぎりを発明するという才能を見せつけられて妬ましさを覚えたからミネルウァの丘から突き落として殺そうとしたため楽しい。ダイダロスがなんでクレタの島に亡命を余儀なくされのかは多分書かれているのだろうけれども私が読んだのは第8巻だけだからそれ以前に書かれたことは知らないから楽しい。それらが書かれた変身物語は意想外に楽しいので普通に楽しく、また、アイルランドを知ろうと思って教わって買って読んでいる『アイルランドを知れば日本がわかる』もまた、とてもわかりやすいしアイルランド人ってそんなにアメリカに移住していたのかーというまるで知らなかったことがたくさん知れてやっぱり楽しい。昨日は休みにしたのでシネマヴェーラに行ってワイズマンを2本見てきてそれは本当に充実した2本で楽しかった。『最後の手紙』と『ミサイル』で、『最後の手紙』は今まさに殺されようとしているユダヤ系ロシア人の女性が息子に手紙を書くというその書く言葉が女優によって演じられ続ける60分くらいの作品でものすごい照明がものすごいし老いた女優の顔の皺の一本一本があまりに美しく、その一挙手一投足があまりに美しく、例えば話しながら小刻みに曲げられる指先の動きがあまりに美しく、顔に落ちる影があまりに美しく、こぼれる涙があまりに美しく、どういった企画で撮られた作品なんだろうというのは多分調べれば出てくるのだろうけれど今の段階では私は知らないけれどもすごくいいものを見た。希望はそこでは合理性にもとづかなかった、ゲットーは世界一希望で溢れた場所になった、女の口から発せられるそれらの言葉、言葉、どの言葉を取ってみても胸を突く、胸を突くなんて言い方じゃあまりに安いのだけれども、ともあれ、すごくいいものを見たということは間違いのないことだったそのあとの『ミサイル』もすごかった。核ミサイルっていうのか、を発射させる地下室で働こうとする人たちの講習を撮ったものだったけれども、まず「核ミサイルを発射させる」という仕事があるというかそれはもちろんあるのだろうけれどもなんというかその事実を突きつけられるというか目の当たりにするとそれだけでうろたえる。発射ボタンを押すということに対する道義的な責任はないと、それを確信するというその確信がいかなるものなのか、まるで想像がつかない。誇りを持てと、それは抑止力として絶対的に必要な仕事なのだから、誇り高い仕事なのだから、誇りを持てと、それはそうなのかもしれないけれども私の想像の範疇をとっくに凌駕したその業務というのが存在するということそれ自体がなんというかとんでもないというかものすごいとんでもないというかそれがだからとても楽しい。地球を見事に終わりにさせるスイッチを押すことが仕事という仕事というのがあるということがなんというか何度でも書くけれどもなんて恐ろしくそして恐ろしいとかウブなことを言っていれば済むわけじゃないということもまたわかるからなんだかもう本当にとんでもない。それで楽しい。彼らの演習の様子を見ていると彼らが押すのか、押すとしたら彼らが押すのか、いやそれは本当にすごいことだ。地下室のその部屋で待機をし続ける仕事。それがあることが本当に人智みたいなものをとっくに超えている感じがして恐ろしいというか恐ろしいという言い方では違う恐ろしさで本当に恐ろしいと私は感じる。演習の模様はまったく見たことがあるそれだったのだけれどもそれはアルドリッチの『合衆国最後の日』だったか、あるいはトニー・スコットの『クリムゾン・タイド』だったか、鍵の回し方だとか全部見たことがあった、クリムゾン・タイドだったかしら、楽しい。私は昨日は休みだったので久しぶりの休みは本当に楽しかった。休みだから楽しいというわけではなくて毎日が楽しいからその日だって当然楽しいのだけど一刻と一秒のどれもが私は楽しかったしだから飲んだし楽しかった。楽しかったから楽しかったので今日をまた労働者として迎えて楽しかったし本当に楽しい日が一日前にあっても次の日がまったく楽しくない苦しい苦虫を噛み潰す辛酸を嘗めるそんな日であっても楽しいから楽しいと言えば楽しい。このままじゃまったくやっていける気がしないということを痛感するような土曜日であったとしても楽しかったと言えば楽しくなるかと言えばまったく楽しくならないのだけど楽しくてしかたがないから楽しい。一日が悲惨なんだけで何もかもから世界から何もかもから見放されたような気分になる脆弱このうえないメンタリティの持ち主だから私は本当にダメなんだけど楽しいと言えば楽しいという文字が踊るからそれを見ていても虫唾が走るだけであとは酒を煽るだけで楽しい。何杯も杯を重ねて意識をこの硬直したクソみたいな意識をとろけさせてなんでもよくさせればそれで夜は越えられるからとても楽しいから楽しいし楽しい。消えてしまいたいしすべてを殴打したくなるし何もかもが破壊されて何もかもといっても核ミサイルとかによってではなく例えば私の握る傘だとかによって身近なものが破壊される程度に何もかもが破壊されてしまえばいいと思えばとても楽しいし楽しかったら楽しいったら楽しい。全部から見放されたような気になんて一つもならないし以上は全部嘘というか作り話というか楽しいというのも嘘だし楽しくないというのも嘘だからそれこそが楽しいというか楽しいったらありゃしないっていうレベルで楽しかったり楽しすぎたりしなかったりしてとても楽しいし辛いとか苦しいとか未来が見えないとかそういう見えなさとか辛さとか苦しさだとか無理解だとか理解されないだとかメッセージは誤配されるだとかメッセージは未達で終わるだとかそういった全部が人智を超えた楽しさを私にもたらすから楽しいし楽しくあろうとすればそういったまったく理解不能の他者だって楽しいから理解なんてしたくないような虫唾とか走ってもいいよって言ってくれる他者がいてくれることが私は本当に楽しいし楽しいといえば楽しかったり楽しすぎたり楽しくなくはなかったり楽しいったらありゃしないったらないっていうことはないっていうレベルで楽しくて嬉しくて幸せでハッピーであれで嬉しくて楽しくて嬉しいし楽しくてハッピーで幸せで楽しい。


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