4月、休日、vivre sa vie

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保坂和志の『カフカ式練習帳』が出ていたことが知れて、買わなきゃ、読まなきゃ、という気になっているのだけど小説はまずピンチョンの『逆光』読んでからだなと思っていたところなので、どうしようか迷うところだけどだけど保坂和志の新しい小説なんて一刻も早く読まないと、と妙に気が焦る。今日は休みだった。いつもより早くに起きて店に向かい、今まで使っていなかったというか借りていなかった地下室を5月から借りて客席にするので知り合いの建築士の人にお願いして大工さんを呼んでもらって邪魔な柱を移動してもらったり、プロジェクターの吊り下げ台を作って取り付けてもらったりをして昼になり、それから車で倉敷方面に出てホームセンターやリサイクルショップに行き家具や電球等を購入して帰ってきたらもう夜で、体があまりに疲れてその疲れがまったく抜けないような状態になっていたので初めて整体に行って体をほぐしてもらった。左の肩と背中のだるさがひどくて、夜になるとだんだんと重くなってもう嫌だという気分になるのだけど今日のような休みの日でもそれがありしんどかった。それが解消されたかといえばどうかわからないし今こうやって打鍵していると左腕がしんどい。フライパン、ということだけなのかはよくわからないけれど職業病だね、よく来られるよ飲食の方は、と整体の先生が言っていた。

 

倉敷に行く途中においしいパンを買おうと寄ったUNIONという店で、お客さんとオーナーとおぼしき方の会話を聞いていたら今年の出店は少人数で、云々、フジロック、という言葉が聞こえ、買うときにフジロックに出店されているんですかと尋ねると今年で4年目になるという。オレンジコートの奥の方でコーヒーを売っているらしい。最初、パン屋さんでフジロックで、というところでまさかヘブンのやたらおいしいパンとホットワインを出す、毎年お世話になっていたというかパンと一緒に幸福を噛みしめていたあのパン屋さんかなと思ったけれどもそれは違ったみたいで、オレンジの奥のコーヒーは利用したことがなかった。今年もフジにはいかないだろう。10年続いたものが2年途絶える。それが何年になるのか。何年になるのか。

どうも、不意に聞こえてしまったフジロックという言葉に私は大いに動揺してしまったらしくそのあとしばらくなんとなくうつむいた気分が持続した。自分の人生を生きる。組織にもカレンダーにもお客さんにも支配されない、自分で支配する人生を生きたいと、格好だけはいいことを先日店のアカウントでつぶやいたりはしてみたものの、現実としてあるのはやはり、どうにも、いろいろ現実的なことだ。多くを休んだらお客さんが離れていってしまう、それはすなわち生活に完全に直結する、という恐怖がどうしてもつきまとう。それを振り払うためには多くを休んでみる必要があるのだけど、それだけの勇気を私たちは持てるのだろうか。今の段階ではそれはできないような気がしている。なんせ怖い。
同じ事は広告というか雑誌等の掲載にも現れていて、本当であるならば口コミ等で広げていきたいというか広げていくのが一番健康的で、たぶん継続的で、いいことなのだろうとはわかっているし、なんせカフェであり、ワヤワヤと忙しい空間にお客さんは来たいわけではない。だから私たちとしても雑誌に掲載してもらって短期的にわっとお客さんが来ることがいいことなのかどうかはよくわからないというか、本当はよくないことなんじゃないかとすら思っているのだけど、どうしても、では、そうしなかったとき一体どれだけのお客さんが来るのか、もしかしたらあっという間に忘れ去られてしまうのではないか、と考えると、お誘いがあればじゃあお願いしますと乗る流れになっている。あちらからで、無料掲載の話だけなのだけど、岡山の地域誌というのはすごく強くて、載れば大きな影響があるということがこの一年足らずのあいだで身にしみてわかった今、なんというか、どういう身の振り方がもっともよいのか、今一度考えないといけないような気はしている。

 

自分の人生を自分で支配する、ということの一つのささやかな実践として、最近は週一で休みを作っているのだけどそれにプラスアルファする形で火曜日に半休を作って見に行きたいライブを見に行くということをしてきた。実にささやかで、しかし逡巡は消えない。必要なのは勇気なのか、それとも人員なのか。肉体的な極度の疲労もあいまって、それを常にといっていいほど考えている。

ライブはgrouperとenの二組のやつで、grouperはもともとアルバムを二つ持っていて、なんで買ったのだったか、ドローンとかノイズとかに興味が集中しているときにどこかのサイトで知って、それで買ったやつだと思うのだけど、どこか遠い場所で密やかに奏でられていると思っていた音楽を岡山なんていう文化のぶの字もないのかあるのか知らないけれどなんていうかだいたいスルーされてしまうような土地で聞けるというのは幸福な体験で、それは逃せないと行った。どちらのライブもドローンで、平日の夜に座り心地のいい椅子に座って聞くそれらはどこまでも気持ちよかった。スーパー8で撮られた粗く光に満ちた映像をバックに美麗と評されるキラキラドローンを紡ぐenと、静かなで微かで妙なる感じの、すごく低空飛行な感じでどこまでも続くのかいつ途切れるのかわからないスリリングな演奏をするgrouperとで、すごく充実したものを聞くことができた。という満足感がライブ後にそれぞれのCDとTシャツ2枚を買うという珍しい行動に私たちを走らせた。経済。

 

自分が好きだったり敬意を持っていたりするものをビジネスにしていくということについては何も思わないし、むしろ積極的にそうするべきじゃないかと今の私は考えているというか、映画にせよなんにせよ、いかに広くにリーチするか、いかにマネタイズするか、いかにサステイナブルな状況を構築するかっていうことをうさんくさいカタカナ語をどれだけ使おうとももっと真剣に考えたほうがいいんじゃないかと思っているのだけど、そうではなく、ビジネスありきで文化的な何かを利用しようとする人種にはへどが出る。そんな資格ないよほんと。見てるだけで胸がむかつくから消えてくれよ。

 

Grouper – Hold the Way

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Grouper – She Loves Me That Way

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En -The Sea Saw Swell

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