8月、夏祭りと幽霊

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日曜日、それなりに忙しく働きながらふいに佐々木敦の文章を読みたいという気持ちが湧いて、それに従う形で書店で目についた『未知との遭遇』を買って読んでいて、今日そういえばツイッターでフォローしてないなと思ってフォローしてみたところmoe and ghostsというヒップホップユニットの宣伝をおこなっていて貼られていたリンク先の動画を見たら凄まじく格好良かったのですぐに買おうと思いitunesストアで買おうとしたところapple idが無効ですだかなんだかのエラーが出て買い物ができない。どうもmountain lionだっけ、OSのアップデートをしたときからおかしいような感じでそもそもmountain lionもポンドで購入していて、なんでだろう、と思っていたのだけど今日購入履歴を見てみたらなんだか買った覚えのないものが入っていたりして、どうなっているのだろうとitunesサポートみたいなところにメールを送っておいた。無事解決するといいが、moe and ghostsを聞きたい衝動は留まらなかったのでここ何年か行っていなかったような気がするタワレコに足を運びヒップホップの棚に行ってみたが見当たらず店員の方をつかまえて探してるんですがと尋ねたところ扱いがないとのことで落胆意気消沈。帰宅後、しょうがないからototoyで買った。こういうどうしても今日聞きたいんです、聞きたい気持ちを抑えられないんです、という衝動はとても久しぶりの気がする。いったいなにがそんなにあれだったのか、今これを打ちながら聞いている。とてもとても変。

 

夜、事実誤認から、それを是正する余地も与えられないまま人間が判断されることについて考える。人間の社会なんて大体がそういうことで成り立っているのかもしれないけれども、苛立ちがどんどんと増す。私は正当に評価されたくて仕方がないのか、そういうことがまかり通っていたことを事後的に知っただけで、無性に怒りが湧き抑えがたくなった。人間がぜんぶクソみたいに見えた。小さな駅のホームには一年で一番多い人口があった。若い人間が多く、長袖を着て襟足を伸ばして部分的に金色に染めて、みたいな集団は黄色い線を超えていなければ気が済まないらしく中にはふちに座り線路に足をぶらぶらさせている者もある。喫煙をしている者もある。とちゅう駅員が近寄って煙草は吸わないように、そこに座り込まないようにと注意をおこなうもまるで聞く様子なし。警察を呼べ、即刻警察を呼べ、補導しろ、逮捕でもなんでもいいから追い払え、なめられてるんだ、青ざめさせろ、法によって殺せ、そんな虫けらども、と思った者もあった。少し離れた高校生ぐらいの男四人はへらへらとマジカルバナナを改変したゲームをおこなっていた。その世代にそんなものが継承されているのかと驚きながら、偉そうなやつが偉くなさそうなやつを小突いたりしているさまを見るにつけ、虫けらどもは抹消されてしかるべきなんじゃないかと思う者もあった。姿は見えないがホームの端からでも聞こえそうな大声で何ごとかを笑い続けている女たちもあった。3両編成の電車がきた。岡山行の最終だった。喫煙をしていた連中とは違う車両に乗り込んだが、似たような連中はこの車両にもやはり入り込み、我が物顔をして汚いスニーカーでシートを踏む。ピンク色の浴衣の女たちは優先席に座り、なんの音なのか、バタンバタンとうるさい。うるさいだけなら構わないにせよ、横に座るのが母親と乳幼児であり、そのバタンバタン運動が何か乳幼児に危害を加えるのではないかと気が気でないというか、母親は本当にきついだろうなと勝手に忖度する者があった。うんざりする。未来、と思いながら、いったいどんな未来が、と思いながら、ホームから続いていた気分の悪さが頭の中をうずまく騒音でずっと強くなり、苦しかった。もはや人ごみや不愉快な騒音に耐えられない体になってしまったのかと心配になった。パニック障害を親しく感じるような気分だった。こんなふうだとしたら怖ろしいと思った。

傍若無人の若者たちを見ながら静かに彼らを侮蔑する者があったが、だが彼は勝者ではなかった。切り裂かれる状況があった。仮に彼が若者たちに罵倒の言葉でも浴びせようものなら、あるいは侮蔑を表した視線を向けるだけでも、彼は袋叩きにされただろう。彼は体を鍛えているわけではなかったし、どれだけ鍛えようとも、相手が多数ならばまず勝ち目は少ない。彼は彼が見下す者たちに勝てないというアンビバレントの中で持病の偏頭痛を呪わしく思った。

 

その外れた土地の花火はまったくの意想外なことに迫力が大きい。近さからだろうか。光の滝が完全に地面に落下していく様にわっとなり、着火地点も目視できる極めて近い距離からあがる仕掛け花火は最後、クライマックス、目がぜんぶ光でおおわれ、耳がぜんぶ音で圧せられ、現実がぜんぶそれに隠されるような気配があって、その瞬間、私は何によったのか、涙を目から伝わせた。花火で泣いたのは初めてだった。


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