6月

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PK戦の前にひざまずいて祈りを唱えている男がいたり、成り行きを見ることはやめてピッチにひれ伏す男がいたり、終了後、ひざまずくネイマールを抱きながら空いた左手の指を天に向けて何かを唱え続ける男がいたりして、つまりひざまずきと唱え、そういう光景を見ていたら対戦国のチリがずっとそれを想起させていたこともあるけれどもボラーニョの『売女の人殺し』の中のサッカーを扱った作品「ブーバ」を思い出したりもして、そういうことは特には関係ないけれどもチリ対ブラジルの試合は、私にとってはすごくエキサイティングな時間で、終始、と言っていいほどに顔をあんぐりさせながら見続け見届けることになった。端的に言って強い感動を覚え、終了後、自然と涙が流れてくるのに任せた。誰に何に移入しているというわけでもないけれども、例えばフッキという大柄な、むしろアメフトの選手なんじゃないのという選手は最後まで立派な切り込みを見せてくれてすごかったなあと思うわけで、その背にある名前を見ると「HULK」とあり、これフッキって読むのか!そしたらOMSBのあの曲はフッキって曲だったのか!がぜんそれでいいと思う!みたいなところで妙な納得を覚えたのだけれども、調べてみるとフッキは愛称であり本名はジヴァニウド・ヴィエイラ・ジ・ソウザだそうだ。私はアメコミの類を本当に見事なまでにと言っていいほどに知らない人間なのだけど、『超人ハルク』というやつから取られたそうだ。超人ハルクというのは聞いたことがあるような気がしないでもない程度には知っているというかなんとなく、というところで、そもそもフッキってなんとなく聞いたことのある名前だなという気はしていたのだけど、Jリーグで活躍していた選手とのことだった。生きているだけでいろいろと学ぶことがある、と思いました。PK戦の前のブラジルの円陣の挙動もよかったし、なんせチリの国歌は素晴らしい。サッカーのことは全然知らないけど(ってなんでいちいち言わなきゃダメな気がしてるんだろう。なんなんだろう、サッカーに感じるこの敷居)、すごく好きな試合だった。

 

今コロンビア対ウルグアイ戦が始まった。ハメス・ロドリゲスがフリーキックを打った。

 

6月28日。一日中、間欠的に雨が降っていて今も降っていた。こういう天候を見ると梅雨なんだろうという気がしてくるし今日は昼ぐらいに多分起きて、すると両親はすでにいなかった。今日から北海道に旅行に行った。ハイキングか何かをするのだと思う。先週も秩父のどこかの山をのぼっていた。好ましいことだと思っているし、起きたら昨日出張から帰ってきた父親が買ってきた鱒寿司があり、それを二切れ食べて、そのあとにコーヒーを淹れた。内装案を手書きしてスキャンして送った。着々というか、急激というか、事が進みつつある今、どうなるのだろうと、これでいいのだろうかと思いながら暮らす。細かに検討をしてリスクを減じた上で臨みたいような気もしていたのだけれども、こういうことにはどこかで跳躍が必要な気もしている。まるでわからないしいつかはわかるようになりたいとも思うけれども、クリプキという名前を思い出す。いくつかの、十代の場面を思い出す。

その他買う必要のある食器リストの整理など細々としたことを家でおこないながらコーヒーを淹れた。先日買ってきたマンデリンを淹れた。久しぶりに深煎りのコーヒーに対して「本当においしい」という感覚を覚えた。この時はドリップで淹れたのだけど、夜に飲んだときはフレンチプレスで淹れ、度し難く美味しいと思い立て続けにエアロプレスで淹れた。フレンチよりすっきりと飲めて美味しかったけれども、今日飲んだ3杯ではフレンチがいちばん美味しかった。これは私にとってはすごく珍しいことだった。少し前に豆屋さんでフレンチやエアロだとどうしても雑味が出る感じで困っているのですがと相談したところ、豆ですね、いい豆使ってください、という返答で、やっぱりそうなんだな、と思っていて半ば諦め気味だったのだけれども、今日のマンデリンはつまりとても良かったのだろうということだった。それは私にとって嬉しい事柄だった。

 

映画を、ウェス・アンダーソンの『グランド・ブダペスト・ホテル』以来見ておらず、昨夜帰り際に寄ったツタヤで久しぶりにDVDを借りてきて今日の夕方から李相日の『悪人』を見た。なぜこれを見てみたかったのかはもはやまるで覚えていないのだけれども、深津絵里と妻夫木聡はいいなと思ったのだけどなんだか画面が弛緩しきっている印象というか、全然画面を見続ける気が起きなくて、夕飯どうしようかななどとスマホ片手にダラダラと見るだけになった。すごく楽しめなかったことは残念なことだったが、深津絵里がとてもキレイだったのでそれはそれでよかった。いやよくなかった。深津絵里がきれいだったからこそ、見続けるに耐えうる画面の充実が欲しかった。そうしたら私は片時も目を離さずに深津絵里の一挙一動を追えただろう。

映画を見終えた後すぐさま家を出、の前にやっと服を着替え、家を出、スーパーに行っていくらかの食材を買った。これまではずっと母親が立派な夕飯を毎日作ってくれたのでまったくといっていいほど自炊をしていなかったのだけれども、久しぶりに自炊ということで、先日はてブの人気エントリーか何かになっていて読んでこれ食いたいと思ったカオマンガイを作ることにした。そのまえにチーズケーキを焼いた。なかなかケーキ型が見つからずにいらいらが募ったが、どうにか見つかったのでそれで作った。オーブンでそれを焼きながら、カオマンガイ、それとともにキャベツと人参のコールスローと、カオマンガイを作る際に出る鶏の煮汁を用いたセロリと豆腐のスープを作った。どれもやたらに美味しく、数年ぶりにパクチーなるものを食べたけれどもなんでこんなカメムシみたいな香りのする食材が人気を博すのだろうと思いながら、パクチー美味い、パクチー美味い、とけっきょく癖になりながら食べた。コールスローもまた美味しく。生野菜。酵素。喜ぶ、体。

 

映画は私から離れてしまったのか、私が映画から離れてしまったのか、など、『悪人』を見る自分の態度を思いながらやや不安になっていたのだけれども、夕飯を食べながらジェイソン・ライトマンの『マイレージ、マイライフ』を見た。ずっと画面を見続けた。だからそれは私にとってすごくいいことだったし、パーティーのシーンや、結婚パーティーのシーンで、けっこう溢れてくる涙があった。なんでこんなにパーティーに反応してんねん!という関西弁が発動されたほどだったけれどもウェス・アンダーソン同様ジェイソン・ライトマンも音楽に祝福されている感じのある人なので、そういう点ではまったく問題のない感動の仕方だった。いやだけど本当にすごいいいシーンだったと思う。全員が全員よかった。総じて、『とらわれて夏』も非常によかったけれども、やっぱり落とし所の見当たらないこの残酷さ

 

ハメス・ロドリゲスがすごいゴールを決めた。ちょうど打鍵を中断してテレビを見ていたところだったので、流れの中で見られてよかった。すごかった。

 

この残酷さこそがジェイソン・ライトマンの特質のような気もするしそんな気もしないのだけど、落とし所ないなーという、でもそれは本当にとても充実した時間を味わった。やっぱり映画って、いいよね!と思えたのでよかったです。

それからチリ対ブラジルまで時間があったためウォームアップも兼ねてジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』を読み進めた。なんで俺はこれ一所懸命ノート取りながら読んでるんだろうなーという疑問が頭をもたげながらも、面白く読んでいる。狩猟採集から食料生産に移行することで、人口増加、定住、複雑な政治体制、技術者や職業軍人など専門職の成立、病原菌に対する免疫の獲得(家畜と触れ合うので)、みたいなアドバンテージがどんどこ生まれて、侵略、しちゃうぞ領土拡大、みたいな流れが一つ一つ説明されていっていちいち腑に落ちるので面白い。ではなぜ食料生産の開始時期が地域によって異なるのか。なぜ、なぜ、なぜ、というのが楽しい。

そのあとキックオフの笛が吹かれたために試合に集中することにして、ハーフタイムを利用してトマトソースを作った。ずいぶん煮込んだ。たぶんカオマンガイがうまくいったことに気を良くした私は「いっちょ明日の昼飯のパスタに備えてトマトソースでも作ってやるか、一晩おいて味なじませたらまた一興だろうし」みたいなモードになったのだと思う。自分をおだて、自分を動かす。これが私がモチベーションの鬼と呼ばれるゆえんなのだろう。

中南米の人々をまじまじと見る機会がこれまでなかったので今回のワールドカップはすごくいいなと思うし銃とか病原菌とか言ってないでラテンアメリカの小説の世界にまた早く足を踏み入れたいとも思うのだけど朝6時も近いけれど注意してくれる人などどこにもいないのだからもう一本ビールを開ける。ハメス・ロドリゲスが2点目を入れた。


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