10月

text

金子誠の引退試合だったため応援に来ている家族の姿が何度も映された。金子誠は最後まで金子誠らしいやる気のなさそうに見える空振りを見せてくれて私は彼の空振り具合やニヤニヤした表情がいつも好きだった。金子誠と稲葉篤紀が今年で引退するということで、長年の日ハムファンとしては結構さみしい思いをしている。

金子、稲葉、森本、田中、新庄、鶴岡、小笠原、全員が一同に会していた時期があったかどうか自信ないけど、それから小谷野、それでダルビッシュとか武田久とか勝とか、これはどこらへんだろう、一同に介しているだろうか、わからないな、わからないのだけど、こういうあたりの時期の日ハムが私はすごく好きで、ものすごくチャーミングなチームだったと今でも思う。垢抜けなさというのか、そういうものも含めてあたたかくてチャーミングだった。

今はどうか、というふうに「昔はよかった」的な話し方は本当によくないとは思うし私は実態を見誤っているのかもしれないけれども、西川とか中田とか陽岱鋼とか谷口とか中島とか大谷とか、それぞれ好きだけど、好きだよ、実際好きなんだけど、ちゃんと普通にモテそうな感じがしちゃうっていうところで私はちょっと一歩引いちゃうみたいなところがあるのかもしれない、みたいなところがあって、ちょっと垢抜けている感じがさみしいというか、というか、先に挙げた金子、~のメンバーは、本当に奇跡的なバランスの顔ぶれのような気がしてならない。

金子:自然体でやる気なさそうに見える感じがとてもいい

稲葉:真摯な感じがとてもいい

森本:根はすごく真面目そうなのにお調子者キャラをがんばっている感じがとてもいい

田中:本当に真面目そうでとてもいい

新庄:誰よりも楽しそうにやっている感じがとてもいい

鶴岡:かわいい感じがとてもいい

小笠原:本当に真面目そうでとてもいい

小谷野:真面目そうだしおしゃれに気を遣っている感じがとてもいい

ダルビッシュ:そういった面々の中で最年少なのに誰よりも偉そうでそれでいてとても愛されている感じがとてもいい

っていうさ、もう本当にいいチームだったと思うんだよ、と私は今日、金子の素晴らしい空振り具合、金子にしかできない空振り具合とニヤニヤ具合を見ながら、過去を振り返ったってどうしようもないことはよくわかっているけれども振り返らざるをえないときもある、と初秋の肌寒さを感じながらそのように。

 

 

改めて引退セレモニーの様子を見ていたら本当にもうなんだか大好きで涙が止まらなくなった。同じように涙が止まらなくなることは先週もあった。川崎市アートセンターにデプレシャンの『キングス&クイーン』を見に行ったときのことだった。人生の全部が詰まっているようなあの映画を大きなスクリーンで見ながら、愛おしすぎて私はひたすら泣いたのだった。人生の全部、バカみたいな言葉なんだけど私にとってあの映画は本当にそういう感じがする。過酷で、そして美しい。

 

クソみたいな駅の雑踏を乗り越えるためにvladislav delayを音量マックスにして聞く。すると深く重いビートに呑みこまれて全部が穏やかになる。リズム。

 

リズムというか、久しぶりにブログでも書こうと、ソリティアやるくらいならブログでも書こうと、打ち始めたのだけどリズムというか、そういうのがうまく掴めないというかアルノー・デプレシャン見に行く前には友だちから借りたアルノー&ジャン=マリー・ラリユーの『運命のつくりかた』をとても久しぶりに見たのだった、2007年の12月たぶん23日とか以来で、それは横浜の赤レンガ倉庫でなんかの特集上映でやっていて見に行って、見終えて埠頭か何かわからないし埠頭ってそもそも私は28年くらい生きてきたけど埠頭ってなんですかっていうところがいまだにわからないままで生きちゃっているけど埠頭か何かに出て海風か何かにあたりながら涙か何かを流すか何かしながら「人生の全部が詰まってるわ~」とか思ったのだった。その素晴らしいミクスチャー映画をだから7年ぶりくらいに見たのだった、しかし字幕なしのフランス語だったため、まあ覚えているところもあるしだいたいいけるでしょ、と思っていたら甘くて、かなりのところ会話内容はわからないまま見た。だけど画面が強かったので大丈夫だった。それでよかった。鳥。山。マチュー。DVDを借りパクしたい。

 

だから、そう、映画はほとんど見ていなくてアルドリッチの特攻大作戦を見たくらいだったし本はずっと読んでいてドノソのことは本当はよくわからないなと思っていてカルペンティエルの『失われた足跡』を読み始めていて、けっきょく半年近く大宮の実家に寄生することになって、何も与えずに、ただあたえられるだけで、でも10年ぶりくらいの息子のいる暮らしってだけで何か与えられていたりもしないかなとか甘ったれたこと思いながら、この家というか両親との暮らしを離れるのはそれなりに寂しいというか、両親、いろいろありがとうよ、これからも健やかに暮らしていってね、ととても思う。

 

秋だぜ、わりと感傷的になったって許される季節だぜ、と今、虫の音などを聞きながら3缶目のビールを開ける(しかも最近なぜか金麦じゃなくて一番搾りが常備されている)。


« »