9月

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ぐっと来る押し出し四球というものを見たのはもしかしたら昨夜が初めてかもしれなくて、そんなことはないかもしれないけれどもいずれにしても昨夜見た押し出し四球はぐっと来るもので、マウンドに上がっていたのはルーキーの白村という選手だった。そのときまで私は白村という選手の名前を聞いたことすらなかったのだけど、救援陣がグダグダと壊してしまった試合で、石井が招いた一死満塁の状況で彼は登板した。ふてくされたような強い眼差しのいい顔で、その顔だけで私はわりとよかったのだけど、150km前後のストレートはことごとく大きく外れ、ストライクが入らないまま3ボールになった。そのあとのストレート2球でどうにか追い込んでフルカウント。そこで白村はキャッチャー市川のサインに強く首を振った。これまでの5球、まるで制球が定まらないでいたルーキーが首を振ってまで何を投げようとしているのか、解説の岩本とともに注目していると、投じたのはスプリット、低めに外れ、四球となって1点を献上した。

これはけっこうなところ、ぐっとくる一球だった。どまんなかストレートを要求されても危ういように周囲が見ている状況で、落ちる変化球を選択する、主張するという、その態度に私は非常にぐっと来てしまって、いいぞ、いいぞ、と思いながらそのあとの打者2人を打ち取るのを見守った。白村選手にはこれからもぜひがんばってほしいと思いました。

 

言うまでもなくそれは日ハムの話なのだけど、それとはまた別に今日も今日とて現場、その帰り、地元ながらも初めて走る道をチャリでいきながら、初めての道はいつだって楽しいしいつだって他の既視の景色と重ねてしまうからセンチメンタルでもあるけれど、知らない道を走ってたどり着いたホームセンターで麻ひもとドリルビットを買った私は、なんだかそんな気がしたのですぐには帰らずに自販機で「あたたか~い」と書かれた缶コーヒーを買って横のベンチに座って飲んだ。肌寒い夜だった。

肌寒い夜とホットの缶コーヒーの組み合わせがそうさせたらしくて思い出したのは中学時代の塾へ行くか塾から帰る道のチャリの感じだった。成績が抜群によかった私は週1か2か3くらいで最寄りではない教室に通って選民思想を培わされていたのだけど、浦和の教室にはどうにかチャリで行けるよね、となったのでチャリでわりと行っていて、肌寒い時分からそれは始まったように記憶している。エレファントカシマシのMDとかを聞きながら私はチャリをこぎ、帰り道だろうけれども缶コーヒーだかあたたかいミルクティーだかを飲んだ。なじみのない広い道で、橋の下に黒い畑が広がってもっと向こうはオレンジ色の電灯が等間隔で並ぶ高速道路か何かがあったはずだ、川とかも。どうせ秋の到来に切なさか何かを覚えていたしそれは真摯なものだ。中学生が覚える切なさを笑っていい人間はこの世に誰一人としていなかった。

 

ホームセンター前のベンチでそれら全体を思い出していた。思い出すということがこういうことならば、思い出していた。

 

店が着々と作られていく。

この10日間で床が張られトイレと厨房の壁が塗られ厨房機器のおおよそが設置され音響機器が届けられ本棚が作られカウンターが作られた。10日後にどうなっているのか。9月に入ったということは、もしかしたら今月末には私は営業を始めているかもしれないと思うとちょっと目がくらむというか、想像がつかない。それは楽しみなことではあるけれども、恐れみたいなものがないとも言い切れないしここのところ完全なオフというものを作っていないためか疲労がたまってきた感じがまったく否めない。毎晩、すきあらばソリティアをやってしまうあたりも疲れの現れのような気がしないでもないということはないのだけど、疲れがたまってきたのでそろそろ一回休憩を入れる。

体力ないなーなど思わないこともないのだけど、体力がないならば体力がないのだから自分の体力に合わせた動き方をするべきで、などと自分に言い聞かせることにして週明けくらいに一度なにもしない日を作る、と宣言というか自分に言い聞かせてでもおかないとなんやかんやとやることはあるのでやってしまうだろうからここにこうやって書いておくことで休もうねを刻もうねというところ。

 

昨日は念願の綿棒を買ったので耳掃除がはかどるため夜はあたたかいコーヒーを淹れて飲んだあとに虫の鳴き声が外から聞こえてきてビール開けるしベランダにも出る。煙草を吸う。弱気になっている場合ではない。(とか言っちゃいけない)


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