ピナ・バウシュ 夢の教室(アン・リンセル、2010年、ドイツ)

cinema

気分が乗ってないから笑えないと困惑する少女に普段笑っている笑いとは違うの、感情はいらないの、真剣に笑うの、と言って手を握って、走り回りながら大声で笑う年配ダンサーと少女。稽古を見つめながら否応なく体が動いてしまう指導者たち。キャメルの煙を吐き出しながら子供たちを厳しかったり柔らかかったりする顔で見つめるピナ・パウシュ。服を脱ぐなんて恥ずかしいと言っていた少年が舞台で見せるブリーフ姿と自信に満ちた表情。それに対する女の子の見せる若々しい媚態。練習の途中でしゃくりあげながら泣いたガリガリの女の子の、練習時とはまるで違う、完璧に自分のものにしたように見えるおどろおどろしく生々しい歩き、凛とした視線、肩を、あるいは髪をなであげるしぐさ。集団で前方に走りだす椅子のざわめき。舞台裏のちょっとした笑顔。
とにかくすべてがみずみずしく、88分間、異常に長続きする涙の衝動をこらえたり決壊させたりしながら、私は幸福で仕方がなかった。幸福で、親密で、成長とはこうあるものだと、私は、もう、いろいろなものを放棄してでもこういう映画を全力で支持したい。美しかった。人間は美しいし体はもっと美しい。少年少女を過ぎていく時間は切実で、はかなくて、なんとまあ、本当に、偉大なものだと、羨望や嫉妬にも似たまなざしで私は彼らを見続けた。

どうも、若い人たちが体を使って何かに取り組むものであったり稽古の場面というのが大好きらしい。真剣さと無防備な表情のギャップに弱いのかもしれない。ワイズマンの『パリ、オペラ座のすべて』であるとかフィクションだけどアルトマンの『バレエ・カンパニー』であるとか、合唱だけどマリー=クロード・トレユの『合唱ができるまで』であるとか、もはや『ウォーターボーイズ』や『フラガール』もそこに入ってきていいと思うけれど、若い人たちが一生懸命がんばったり笑顔を弾けさせたり歯がゆさに泣いたりしてくれれば、私はもうそれだけで映画を全肯定できる。たぶん、特にアントワーヌ・ドワネルもののジャン=ピエール・レオーに向けている私の視線はこれとほぼイコールなんじゃないかと思う。人間ってすばらしい。その素晴らしい人間をうつしだす映画ってたまらなくすばらしい。そういうことなんじゃないかと。

ダンス等にさっぱり疎いのでピナ・バウシュというダンサーがどれだけの人なのかさっぱり知らないのだけど、誰かに似ているなと思ったらヒッチコックの『レベッカ』に出ていたいじわるメイドのフローレンス・ベイツに似ていた。と思って画像を見比べたらそうでもないかなとも思ったけれど鼻が似ているかもしれない。あまりにどうでもいいけど。


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