次の朝は他人 (ホン・サンス、2011年、韓国)@神戸アートビレッジセンター

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映画監督である主人公の作品にかつて出演したことがあるずるそうな顔の、最近ちょっと太り気味という男の現れがとてもいい。お前は利己的な嫌なやつだと唐突に罵り始め、穏やかなはずだった酒の場に嫌な緊張が走る(嫌な緊張が走るということはとても大切なことだ)。そうかと思えばはしごした居酒屋では主人公の話に釘付けになったような顔つきで傾聴している。まるで健忘症にでもかかったみたいだ。

そこで主人公が語っているのは、出来事はそもそも無数の偶然から成り立っている、我々はその中の一つを都合よくつまみあげ、それをもってこの出来事の理由はこれなんだと説明する、それだけのことだ、というようなことだ。

偶然の結果としての現在なのか、選択の結果としての現在なのか、その違いはあれど、いくつかの場所で指摘されているのを見たように、ホン・サンスのこの作品は三宅唱の『Playback』と奇妙なまでに似通った要素を持っている。

説明のつかない反復があること、画面が白黒であること、登場人物が映画関係者であること。ただそれも、単なる偶然として処理すればいいように思われる。

 

この映画で人は歩き、誰かと会い、どこかに入って飲み食いして話す。昼はあっという間に夜に変わり、朝になれば出来事の記憶の多くはリセットされ、またどこかで見たような一日を繰り返す。当初3,4日の予定としていた滞在も、しまいには「いつまでいるかわからない」に変わるかもしれない。一日が中途半端な形で永遠に螺旋状に繰り返されるのかとも思われたが、この映画の最後、写真を撮る女性の登場を契機にして、主人公のソウル滞在は終わりそうだ。そこで彼は壁に背をもたれ、銃弾に身をさらしているかのようだ。そのときのユ・ジュンサンのこわばったような、どこか不思議そうな表情が印象的だ。

 

いくつもの美しい場面があった。

主人公がかつての恋人の部屋に酔いに任せて上がり込み、やっぱりお前を愛していると情けのないことを言いながら哭泣するくだり。女のいらだちと戸惑いと併せてなんともいえない。

その元恋人に酷似した居酒屋店主の買い出しについて行った帰りの唐突なキス。雪の中での二人の笑顔がとてもいい。

そして忘れがたいのはその翌朝、引き続き雪の降りしきる早朝の道路に居酒屋帰りの五人が出る。一人は勝手に道路を渡り、一人がそれを追う。一人はべろべろに酔い、一人はその腕を抱える。ハイヒールを履いた一人はそのわきに立つ。五人がそれぞれのあり方で並ぶその白い画面は、なんというかどこまでも自由だった。

『Playback』では役者それぞれの顔が強く印象に残ったが、この映画では一人一人というよりは、複数人が画面の中に並んでいる様子に強度を感じた。

 

原題は「北村の方向」という意味とのこと。実にそっけなくていい。英題は「The Day He Arrives」。邦題も英題も、「さすがに北村の方向ではなあ…」というところだったのだろうなというのが伺えてとてもいい。

 

ホン・サンスの4本は5月になったらシネマ・クレールに回ってくるみたいなので、他の3作もぜひ見たい。


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