JUNO/ジュノ(ジェイソン・ライトマン、2007年、アメリカ/カナダ)

cinema

どこまでも軽い足取りで、口ぶりで、大人たちの心配などは犬にでも食わせておけばよくて(だけど犬フリークの継母はそれを飼おうともしないけどね)、人生なんてたいそうなものでもないんだし、すいすいとやり過ごしていくんだ、70sのパンクミュージックとダリオ・アルジェントのスラッシャームービがあってスナックと着色料たっぷりのドリンクがソファの横にあればそれで全部オッケーですけれど何か、というような小賢しくもチャーミングなエレン・ペイジの姿が最高だ。彼女が軽口を叩きまくる姿は、何かへの強い抵抗であり闘争だ。彼女は屈することのないレジスタンスの戦士だ。

孤独な戦いを重ねていったあとだからこそ最後がたいへんにしみた。そんなはずはないのにと思いながら涙がどんどことあふれていった。練習場で恋人と仲直りするくだりや、「作戦開始!」の声とともに始まる出産。彼女の股ぐらを見守る友人が見せる、あくまでも眼前で起こる事態を楽しんでみせるという顔つき。出産後のベッドに競技場から直行してやってくる恋人、後ろからそっと抱かれてやっと涙をみせるエレン・ペイジ、キャット・パワーの「sea of love」をバックに子どもを抱き上げる養母、それを見つめる継母の表情、そして恋人と家の前でおこなうアンプラグドセッションの、それを少しずつ遠ざかりながら収めるカメラの、素晴らしさ。

それにしても、子どもを渡す予定だった夫婦の崩壊、夫の転向の姿は悲惨だった。諸君、と私は誰に向けてでもなく言いたい。あの男の気持ちを、君たちは指さして非難できるだろうかと。少なくとも私は「うわー」と思いました。

夫がダメになってしまったあとになって、それまでどこか気持ち悪さを感じていたその妻が突如として愛おしい祝福されるべき存在に思えてくるから不思議なものだった。彼女はきっと子どもを真剣に愛するのだろうと思うと安堵。君をどれだけ愛しているのか超伝えたいって後ろでショーン・マーシャルが歌っているのだから、とても安心だ。

 

ジェイソン・ライトマンの映画は初めて見たのだけど、チャーミングで親密で、これ以降どんな映画を撮っているのかがぜん興味がわいた。そしてエレン・ペイジが監督デビューをするとのことで、それも楽しみですね。


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